企業不動産を分類し、目的を明らかにする
「CRE戦略」という言葉は、すっかりポピュラーになりましたが、CREとは単に「Corporate Real Estate:企業が保有する不動産」のことで、「CRE戦略」となると、企業の保有する不動産をいかに経営に貢献できるように活用するか、ということになります。
昨今、企業が保有する不動産をめぐっては、不動産を含めた企業価値をいかに向上させるか、会計基準の変更に伴う対応やM&Aに対する備えをどうするか、さらには、地域社会との共存、社員満足度への貢献など、多くの課題が取り上げられており、不動産を企業の成長や発展に役立たせるためのひとつの戦略として、積極的に活用しようとする企業が増加していると言われています。
こうした活動に取り組む、あるいは課題に対処するためにも、まずは、自社の保有する不動産がどのような価値を持ち、どのように活用するのが適正であるのかを評価、検討することは非常に重要なことです。
土地所有の状況
まず、企業は実際にどの程度、不動産を所有しているのかを見てみましょう。
国土交通省の「2019年土地保有・動態調査」によれば、土地を所有している法人数は約64万8千法人で、法人総数(約194万6千法人)の33.3%となっています。資産区分別に見ると、「事業用資産」用の土地を所有している法人数は約50万9千法人(同26.2%)、「棚卸資産」用(投資目的など)の土地を所有している法人数は約8万7千法人(同4.5%)となっています。
図1 資産区分別土地所有法人数・割合(2019年1月1日現在)
所有面積で見ると、2019年1月1日現在、法人が所有する土地の総面積は約262億1千万㎡となっており、これを資産区分別に見ると、「事業用資産」が約173億1千万㎡で、「棚卸資産」が約21億9千万㎡となっています。土地を所有する法人1法人当たりの所有土地面積は、全体では約4.0万㎡、資産区分別では「事業用資産」約3.4万㎡、「棚卸資産」約2.5万㎡となっています。
図2 資産区分別面積・割合(2019年1月1日現在)
また、平成24年1月1日時点の調査結果(国土交通省の「企業の土地取得状況等に関する調査結果」)から、企業が所有する土地の利用状況を見ると、事業用資産では、利用地面積が94.3%となっており、9割超が自社用、事業所用、工場用土地などの企業活動に使用されているようです。一方、棚卸資産では、利用地面積が46.8%、未利用地面積が53.2%と、売却が目的の投資用であるという特徴が出ています。
この数値を見る限り、企業においては、積極的に、不動産を事業用資産として活用しているように見えます。
保有不動産の価値
不動産を事業用として活用する、あるいは、企業価値を高めるために活用するにせよ、企業が保有する不動産がどのような価値を持っているのか、評価する必要があります。
保有する不動産について評価する基軸としては、まず、現在その不動産が、どの程度事業に貢献しているのかを評価することが挙げられます。
企業不動産は、大きく分類すると三つに分けられます。
ひとつは、本社や支店、営業所など、オフィスとして使用されたり、工場として利用されたりなど、事業のために直接利用されているものがあります。次に、社員寮や研究用の施設など、間接的に事業用として利用されているもの、最後に、事業にはまったく関係のない、その他の不動産、この三つということになります。
CREを評価するときは、それぞれについて評価する必要があります。
事業用に直接利用されている不動産を評価するには、事業にいかに貢献しているかが問題となります。売上や利益にどの程度貢献しているのか、あるいは、人材採用や将来の資産価値など、間接的な貢献もあります。
直接事業用に活用されている不動産は、やはり、その不動産を効率的に活用しているかどうかが問題となります。販売店として活用しているのであれば、面積あたりの売上、工場であれば、面積あたりの生産高などが評価のポイントとなるでしょう。物流施設であれば、配送拠点としての利便性も求められます。本社の場合は、さらに様々な要素が考えられます。事業をスムーズに行うための立地や規模、サプライチェーンの問題も考慮すべきポイントでしょう。また、本社は、人材確保にも影響を与えますから、立地条件やオフィスの快適性、働きやすさなどがポイントとなるでしょう。当然、業種や規模、目的によって異なります。
事業に間接的に利用される不動産は、研究のための施設や社員寮、別荘などの福利厚生施設がありますが、これらも間接的とはいえ、事業への貢献度が求められます。研究施設の場合は将来の事業に向けた大切な投資であり、計画性は事業を継続するにあたってとても重要なことです。
社員寮や福利厚生施設は、社員のモチベーションに直結しますので、社員の生産性向上につながり、人材確保にも貢献します。しかし、これらが無駄な投資である場合は、社員にとってむしろ逆効果となる場合もあるため、慎重な評価が必要です。さらに、事業の成長段階によっては、その不動産自体の価値のみではなく、キャッシュフローを重視する必要性もあり、吟味が必要です。
その他の不動産には、駐車場として使っていたり、何も利用していない遊休地などが該当します。通常、CRE戦略といえば、この遊休地をいかに収益不動産として活用するかであり、自社内で、こうした不動産がどれだけのコストがかかり、将来、収益を生む可能性あるのかを検討することが必要です。
また、その他の不動産には、投資用に持っている賃貸物件なども該当します。上記のデータでいうところの「棚卸資産」ということになります。
企業によっては、事業のライフサイクルを考え、徐々に不動産事業への取り組みを増加させている企業もあり、今後の検討課題とすべき企業も少なくありません。