先般、今年の路線価が発表されたが、全国約32万5千地点の標準宅地は、前年比0.4%の上昇となった。日本一となった東京中央区銀座5丁目の鳩居堂前は、1平米当りの価格が4032万円となり、1992年のバブル直後の価格3650万円を上回った。最高額が更新され、今回のバブルを証明することになったと言える。
ただし、その他の都市では、90年バブル期の水準には程遠く、東京一極集中の結果が改めて認識されることになった(図表①)。
この背景には、人口流入、経済の活力、それに伴う都心部の再開発事業の拡大等があるが、地価上昇を可能にしたのは、異次元の金融緩和とマイナス金利政策と言っても過言ではない。不動産業界への融資の状況を見ても、前回の90年バブル期を大幅に上回っている(図表②)。
上記の図表1、図表2
東京都心部の地価上昇は、既にピークを過ぎていて、今後、価格は緩やかに下落していく可能性が高くなってきている。ただ、このことは、収益性を度外 視した価格の上昇がなくなるという事であり、住宅需要についていえば、全体としては堅調であると予測される。「今、住宅は買い時」だと考えている購入 希望者に対する各種のアンケートを見ると、「今は、住宅ローンの金利が低い水準にあるから」「将来、住宅ローン金利の上昇があると考えているから」といった回答が多い。また、「今後、消費税の引き上げが予定されているので」といった回答も上位にある。こうした「金利」や「消費税」に関しては、当面、 情勢の変化が考えにくいだけに、購買態度についても、急激な変動はないのではないか、と思われる。
なお、ここへ来て、多額の借金をして不動産への投資をする「サラリーマン投資家」への金融機関からの目が厳しくなりつつある。そうした点から考えると、これからも不動産市場で活発な動きを見せるのは、個人の富裕層と企業ということになる。共に、資金面での阻害要因が少ないからである。以下、想定される企業の動きについて解説してみたい。
不動産への関心を一段と高めている背景
この数年間、オフィスビルや一棟の賃貸マンションを収益物件として取得する企業が多くなっている。特に顕著なのが建設業者で、ゼネコンや工務店など、企業規模を問わず積極的で、現在も続いている。従来までは、ファンドなどの機関投資家の存在が大きかったが、価格の高騰や利回りの低下などで、購入に対して慎重な姿勢に転じる中、建設業者の存在感が目立っている。
この動きの背景には、本業の将来に対する危惧があるものと考えられる。建設業界の足元の業績は、概して好調、絶好調と言っても良いくらいである。
しかし、東京オリンピック以降については、厳しい状況に陥る可能性が指摘されている。そこで、余裕のあるこの時期に、安定的な収益を見込める不動産を取得しておきたいとの経営判断が働いていることは、容易に理解できる。
「本業の行末を考えた」不動産投資は、日本の人口減少、高齢化社会の進行など、企業を取り巻く事業環境の変化が予測される中で、ますます活発になっていくものと思われる。既に、鉄道会社は、運賃収入の減少が続くことを想定し、ホテル・商業施設・オフィスビルなどによる収益確保に注力しており、本業の収益を上回っている企業も少なくない。
また、本業を一段と強化するために、研究開発費の確保が必要となり、保有不動産を資金化する動きも出ている一方で、本業が苦境に立ち、売却を余儀なくされる後ろ向きの例もある(図表③)。
中小企業では、経営者の高齢化による廃業や解散も増加しているが、それに伴う資産処分も、近年、多くなっている。
何れにせよ、企業を取り巻く環境の構造的変化が激しくなっていることから、必然的に不動産に対する関心が高まっていることは、間違いないものと言える。
不動産の「稼ぐ力」を評価する動きが活発化
人口減少による様々な内需の縮小傾向は必至であることから、企業は不動産活用による収益の確保・拡大を図ることに注目し始めている。収益不動産を活用することで資産効率を向上、収益の安定化を進める動きである。
これまでのように、本業の補完を目的とする消極的なものではなく、本業とあわせ収益の二本柱にする、或いは、これまでの本業に代え、次の時代の本業にする、という積極的な方針を取る企業も珍しくなくなってきた。
不動産賃貸事業を企業の「業績の柱」とする動きで、ある飲料メーカーでは、利益額が本業と同じ水準になっている。また、老舗の繊維メーカーやアパレル企業では、好立地の土地に商業施設やオフィスビルを建設・運営して、不安定な収益構造から脱却に成功した例もある。
更に、不動産の運営によって得たノウハウを活用して、プロパティマネジメント業務を展開することで、不動産事業を自社の主力事業にしていくという戦略を取る例も出てきた。
一方では、不動産賃貸事業への人的資産の投資を必要最小限に抑えて、利益を確実に確保する方針の企業や、専従の社員を配置せず、専門家に全面委託する例も少なくない。
安定的な収益を確保し続けるには、必要な日常の運営と管理について、外部の優れたパートナーの選定が重要となる。
何れにせよ、企業経営という観点から、不動産の活用の巧拙が、将来の業績に大きな影響を与えることは確かと言える。
不動産市況アナリスト 幸田昌則氏
ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を全国で多数行う。市況予測の確かさに定評がある。