建築着工データ
賃貸住宅経営を始めるにあたっては、住宅供給の動向を把握しておくことが必要です。国土交通省が定期的に公表する建築着工統計などのデータを大まかにつかんでおけば、賃貸住宅の需給状況を理解するのに役立ちます。
着工数の増減は景気をストレートに反映
わが国の住宅建設の着工データは、国土交通省が毎月出している「建築着工統計調査」が代表的なものとして広く活用されています。また国交省は毎年、年度ごとに住宅に関する総合的な統計を網羅した「住宅関連データ」をまとめており、一覧性の高い資料になっています。ここでは2018年度における住宅関連データを取り上げます。
過去20年における新設住宅着工戸数は、2006年度の128万5千戸をピークに、リーマン・ショック(2008年9月)のあった2009年度の775万戸で底を打ちました。その後盛り返して2018年度はピーク時の7割まで回復しました。「持家系」は戸建住宅と分譲マンションの合計、「借家系」は賃貸住宅と給与住宅(社宅、借り上げ住宅)の合計を示しています。持家と借家の新設着工動向も総戸数にほぼ比例していますが、持家系のピークは1999年度の788万戸、借家系は2006年の547万戸と異なっています。
こうした背景には、1999年度に住宅ローン減税が実施されて住宅購入者が増加する一方、バブル経済の崩壊でリストラなど雇用・所得環境が厳しくなり、その後の住宅購入が下火になったことが影響していると思われます。借家系のピークである2006年は4年連続で住宅着工戸数が増加していた時期です。
翌年(2007年)にいわゆる「耐震偽装事件」が起きて建築基準法が改正され、建築確認・検査の厳格化が図られたこと、さらに2008年のリーマン・ショックで世界的な不況に陥ったことで新設住宅着工戸数は2009年に大きく落ち込みました。
2013年は翌年の消費税引き上げをにらんで持家系の数値が上がっていますが、これは住宅購入の駆け込みが増加したため。2011年の東日本大震災の翌年から賃貸住宅が伸びているのは、震災復興の一環として賃貸物件である「復興住宅」の建設が進んだことを反映しています。2015年1月から相続税制が改正されて以降、賃貸住宅の建設需要が上昇しました。高額な相続資産を持つ人が節税効果を狙いにアパート・マンション経営に乗り出したことが賃貸住宅の着工数を押し上げましたが、2016年度には下降曲線に転じています。
賃貸物件は堅調続くが今後は?
既存賃貸物件の動向を見てみると、居住用の既存物件は前述した新設「借家系」の過去20年と比べて面白い現象が起きているのがわかります。というのも、新設の動向では1999年度から2006年度にかけて増加し、その後2010年度を底に上昇して2016年に再び下降しているのに対し、既存賃貸物件は2015年まで右肩上がりを続けているのです。
これは、1999年度から2015年度まで新設および既存の賃貸住宅が確かに市場に存在していたことを示すものではないでしょうか。この図表から稼働率(空室率)は読み取れませんが、減少しないで増加しているということは、毎年確実に市場に供給され利用されていたことを示す数値といえるでしょう。
ただ、2015年から居住用の賃貸物件が下降しているのが気になります。これは近年、非正規雇用の拡大で個人所得が伸び悩んだことと、シェアハウスやカーシェアリングなど「所有しない」世代が増加し、ライフスタイルが変化したことも背景にあると考えられます。また事業用の既存賃貸物件が20年間横ばいなのは、インターネットの普及拡大で無店舗販売が増加するなど、拠点増設をあまり必要としないIT企業が増えたことが影響していると思われます。
今年の世界的な新型コロナ感染拡大で、今後の既存賃貸物件の動向は大きく変わる可能性があります。在宅勤務の導入企業が増加しテレワークが進むと、居住用及び事業用の賃貸物件は、より郊外に移転するかもしれません。
借家の間取りは縮小傾向に
賃貸住宅経営では、自己資金に加えて銀行融資を申請するケースが多いと思われます。住宅経済関連データでは、過去20年における貸家着工時の床面積の推移を資金別に調査しています。それによると、貸家全体では1999年度が最高の53.2㎡で、2008年度の45.5㎡が最低になっています。2008年9月に起きた世界経済危機(リーマン・ショック)の影響が貸家の間取りにも表れているのではないでしょうか。
機構融資住宅とは、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の貸し付けによる賃貸住宅のこと。住金機構の住宅融資は、個人住宅と同様延べ床面積の下限が設定されており、賃貸住宅は原則として50㎡以上になっていることから、2000年度の67.2㎡をピークに2009年度の51.2㎡が最少の間取りになっています。
銀行など民間金融機関の貸し付けによる賃貸住宅の間取りは2012年度の50.4㎡が最高で、2007年度の44.4㎡が最も狭い間取りになっています。前述したように、2015年度ごろからシェアハウスなどが増えて戸当たりの床面積は縮小していると思われますが、30㎡未満の投資用マンションが増えて床面積が縮減傾向にあるとも考えられます。