適正な不動産価格を把握するには
不動産投資家として物件選びをする際に、もっとも気になることのひとつが、「この物件自体の価値と購入価格は合っているのだろうか?」ということでしょう。
また、自分の想定よりも高かったり、安かったりした場合は、「この物件は、なぜこの価格なのか?」という疑問が頭に浮かぶのではないかと思います。
物件を選別する際、「なぜこの物件はこの価格なのか?」という観点を持つこと、また、物件の査定額がどのような基準から出されたのか、基になる基準は何かを理解することはとても重要です。そして、ある程度の基準、根拠をつかむことは可能です。
不動産価格には、標準となる価格がいくつかありますので、土地価格の種類について見てみましょう。
4つの土地の価格の違いと価格差
土地には、「一物四価」と言われるように、4つの価格があります(基準地価を含めて「五価」と言われることもあります)。それは、固定資産税路線価(固定資産税評価額)、相続税路線価、公示価格、実勢価格の4つですが、それぞれに目的や役割が異なりますので、4つの価格の意味、違いはぜひ押さえておきましょう。また、公表される時期も異なりますので、各価格の推移を見ることで、短いスパンでのトレンドを把握することもできます。
4つの価格を大まかにまとめると次のようになります。
本サイト「不動産投資として見ておくべき路線価のポイント」にて、路線価について紹介しましたので、ここでは、公示価格と実勢価格を中心に紹介しましょう。また、路線価というのは、あくまで面している道路の価格によって算定されるものであり、税金の評価額として公表されているものですから、実際の不動産投資を行う場合には、路線価以外にも、いくつかの土地価格を把握しておく必要があります。
固定資産税路線価(固定資産税評価額)、相続税路線価、公示価格、実勢価格の価格水準をイメージすると下図のようになります。
公示価格と実勢価格の関係は、ケースによってかなり異なりますので、これについては後述します。相続税評価額は公示価格の約8割、固定資産税評価額は公示価格の約7割とされています。
不動産投資は公示価格を参照すべきか
公示価格とは、国土交通省が地価公示法に基づいて設定する土地価格のひとつです。その目的としては、国土交通省は、次のように提示しています。
公示価格は、地価公示法第2条に基づいて、2人以上の不動産鑑定士が全国における主要な地点、約2.3万地点で、毎年1月1日時点の更地としての価格を鑑定し、必要な調整を行ったあと、3月下旬頃に国土交通省から公表されます。
国土交通省からの目的にもあるように、公示価格は公共用地の収用や相続税路線価・固定資産税路線価の算出のために国が毎年評価を行っています。つまり、相続税路線価と固定資産税路線価の算出根拠となっているわけです。
公示価格に対して、各都道府県が発表する「基準地価」というものがあります。これは、都道府県が、「国土利用計画法」に基づき選定された「基準地」に対して、ひとり以上の不動産鑑定士を派遣し、毎年7月1日時点での値段が査定するものです。
公示価格に対してこちらは「基準地価」と呼ばれ、毎年9月下旬ごろに、各都道府県知事から発表されています。(五価と呼ぶ場合は、この「基準地価」が含まれます)
基準地価は、公示価格を補完するものとも言え、実質的には同じ性質のものと考えていいでしょう。
公示価格と基準価格は、両者とも公的な土地価格の指標ですが、一部の土地しか対象とされていないために、自分の該当する土地がこれらの対象土地から離れている場合には、参考にならないケースもあるために、この点は注意が必要です。
現実の取引価格となる実勢価格をどのように把握するか
公示価格とは、土地に対する課税額を決めるため、また土地の売買価格の目安としての指標ですが、実勢価格とは、土地を売買する際に、実際に取引が成立した価格のこと、いわゆる「時価」ということができます。
土地には周辺環境や文教施設、隣地との関係、土壌など、実にさまざまな条件があることに加えて、売買する当事者間の事情、緊急具合や経済状況などによっても変わってきますので、土地の取引にまったく同じケースというものは存在しません。2つとして同じものはありません。ですから、実勢価格は、都度変化します。
公示価格と実勢価格は差はケースによって異なると前述しましたが、土地それぞれが持つさまざまな条件があること、そして公示価格の調査時期と実際の売買時期は異なる場合が多いことから、大きく変化する可能性があります。特に都市部では、実勢価格が短期間で変動してしまうこともあり、公示価格と実勢価格は乖離する傾向が高くなります。ケースによっては、実勢価格が公示価格の150%、200%以上になることもあるようです。地方では、公示価格と実勢価格は、それほどの差はないと言われています。
ですから、実勢価格を正確に把握することは簡単ではありませんし、あくまで「想定価格」に過ぎませんが、「周辺地域での過去の取引データから推測する」「不動産広告などの販売価格から推測する」「現地の不動産会社で確認する」などの方法を採ることで、実勢価格に近い金額は把握できるでしょう。
過去の取引実績を知りたい場合は、国土交通省が公開している「不動産取引価格情報検索」から参照することができます。
4つの価格を不動産投資にどう活用するか
このように、不動産には複数の価格が存在しています。実際の不動産の売買、取引を行う場合は、実勢価格が取引価格にもっとも近い価格となるのですが、厳密な実勢価格を事前に算出するのは、取引条件等にも左右するため極めて難しいです。
路線価や公示価格などの公的機関が定めた価格をそのまま使うことはできないまでも、一時期の地価の動きに惑わされることがないように、これらの価格を参考にしながら、適正な取引価格をシミュレーションすることは大切です。
固定資産税路線価(固定資産税評価額)は、土地を取得した際の固定資産税や都市計画税などの税金の基準になりますので、キャッシュフローをシミュレーションする際には、必ず参照するようにしましょう。
また、相続税路線価は、相続や贈与を受ける際の相続税、贈与税の基準価格ですから、相続や贈与された土地を活用して投資を行う場合には、おおよその相続税や贈与税をあらかじめ把握することで、税金の申告はもちろん、不動産を担保にした借入を行う場合の担保評価を計算する際にも役に立ちます。
4つの価格は、使用する場面を踏まえながら、使い分けるようにしてください。
現時点での不動産投資はどう考えればいいのかと不安になる方も多いかもしれません。しかし、本来、不動産投資は、息の長いものです。数年で売買することもありますが、多くは10年~数10年の単位で行うものですから、短いスパンでの不動産価格の上下よりも、長期的な戦略として見るべきでしょう。
あくまで、自分の目指す投資スタイルに従って、長期的な視点で投資を考えていくことが大切です。
構成:猪口真(株式会社パトス 代表取締役)
編集者 ビジネス書籍の編集・執筆、ビジネス雑誌・Webメディアへの寄稿、取材・調査による分析レポート、教育コンテンツ開発、映像制作ほか、マーケティング・コンサルティングまで行う。