投資不動産を保有している方は、「いつ売るのか」という課題を常に持っていると言えます。これは「出口戦略」とも言われ、最終的に売却したときに、初めてトータルの収支が明確になるからです。この出口戦略まで考えたうえで、不動産投資を行うことが重要です。効果的な出口戦略を立てるには、その不動産の持つ様々な条件の違いを考慮したうえで策定する必要がありますが、ここでは、投資不動産はいつ売ればいいのか、売却するタイミングについて考えてみます。
不動産は市況や需要、建物の状態によって価値は変わりますから、売却するタイミングで価格が変わります。つまり、得る収益が変わるということです。不動産投資をしている方の中には、「投資不動産を購入したが、将来どうすればいいのか」「購入した不動産を売却したいがタイミングがわからない」と思っている人は少なくありません。不動産投資を成功させるために、「いつ売却すればいいのか」を理解し、最適なタイミングで売却することが必要です。
この売却のタイミングについては、条件によって様々な判断のポイントが存在しますが、大きく4つの視点として分類することができますので、ご紹介します。
売却のタイミングで、押さえておくべき4つの視点
視点①不動産価格の変化
不動産の売却を考えるタイミングのひとつは、周辺環境の変化などによって不動産価格が変化し、物件の収益性に変化が起きたときです。たとえば、該当地域や周辺地域の不動産価格が上がっている、賃料相場が上昇しているときは、資産としての価値が高くなっていますので、高値で売却できる可能性が高まっていると言えます。
逆に、不動産価格が下がっている、賃料相場が下降しているときも、売却の機会であると言えます。資産価値が高いうちに売却しようとする考え方です。そのまま放置しておくと資産価値が減少してしまうばかりか、賃料を下げざるを得なくなれば、収益も減少する可能性があるからです。
ただし、いずれにしても、不動産価格が上昇しているから売る、売らない。価格が下降しているから売る、売らないという単純な方程式があるわけではありません。不動産市場の状況を踏まえたうえで、自分の投資戦略に基づいて、専門家のアドバイスも得ながら、適切な意思決定をする必要があります。
国土交通省が地価公示法に基づいて公表する「公示価格」など、不動産価格は定期的に確認しておきましょう。
視点②入居者がいるか空室か
・入居者がいる
不動産価格の変化と同様の考え方ですが、「入居者がいる」という状況は、より高い価格で売却するためのひとつのタイミングだと言えます。新築で投資不動産を購入した場合、最初は入居者を集めることから始まりますから、入居者を募集することにもコストがかかります。入居者がすでにいるということは、物件の買い手にとって、その手間やコストがかからずに、家賃収入を得ることができるわけです。
また、すでに入居者がいるということは、周辺の入居者ニーズに対応できている物件であるとも言えますから、安心して購入することにつながります。
ただし、空室ではないため、新しいオーナーが、物件の正確な状況や状態を確認することは原則的に不可能です。中を確認できないということはデメリットになります。物件の状況等が購入時と異なる場合には、当初の想定から売却価格が下がってしまうこともあるでしょう
・空室、あるいは空室率が上昇している
保有する区分マンションが空室の場合、あるいは保有する一棟マンションの空室率が上がっているときも、売却の機会のひとつです。家賃を下げるのではなく、築年数が新しいうちに売却するという考え方です。
空室は周辺の競合状態に加えて老朽化など様々な問題によって起こりますので、即効的に空室率を確実に回復させる(空室を埋める)手段は存在しません。リフォームやリノベーションによって、物件の価値を上げるという方法もありますが、新たな投資というリスクもあり、空室がなくなるという保証はありません。また、家賃を下げるという手段もありますが、家賃を下げると売却価格も下がってしまうことになりますので、家賃の設定については、慎重に検討すべきです。
周辺の賃貸需要が低下しており、空室が長引くという判断をするならば、売却を検討する良い機会かもしれません。
・空室にはメリットも
前述のとおり、空室の場合は内覧することで現状を細部にわたって確認できるという優位点があります。内覧できるというメリットは、投資ではなく居住用として物件を探している人に対しては好条件です。空室があるということは、居住用として売却の機会と言えるわけです。居住用として購入されるのはファミリータイプが多いため、ファミリータイプの区分マンションを保有するオーナーにとっては、売却先は投資家だけではなく、居住用の方々も対象となりえますので、柔軟な出口戦略を立てておく必要がありそうです。
視点③キャッシュフロー:ローン返済と減価償却のバランス
投資用不動産を購入すると、多くの場合、毎月の経費として減価償却費を計上します。 減価償却費とは耐用年数*に応じて分割して計上する制度ですが、賃貸経営を長期にわたって行っていると、「経費にできない元金返済」が「経費にできる減価償却費」を上回ってしまうという「デッドクロス」の状態に陥ることがあります。
この状態になると、帳簿上は黒字でも、経費にできる費用が減少することで利益が増加し、所得税などの税金が増え、結果的に手元のキャッシュが減少してしまいます。つまりキャッシュフローが悪化します。
そのため、キャッシュフローを重視し、このデッドクロスをひとつの売却タイミングと考えることもできます。元金返済額が減価償却費を上回るタイミング、デッドクロスの時期を計算し、その時点までに不動産を売却するのも、ひとつの出口戦略と言えます。
*耐用年数は構造や工法、設備によって異なりますので、注意してください。
視点④築年数と保有年数
・大規模修繕
売却のタイミングは、建物自体の築年数によっても変わってきます。新築で建てられたマンション等は、通常10~20年に1回のペースで大規模修繕が行われます。大規模修繕とはマンション等の建物の状態を維持するために、外壁塗装や防水工事、給排水管など、建物全体にかかわる大規模な修繕工事のことです。
区分マンションを所有している場合、この大規模修繕のために修繕積立金を毎月支払う必要がありますが、一般的には、老朽化に伴い、この修繕積立金は値上げされます。また、実際に大規模修繕を行う際に費用が不足し、その費用をオーナーが負担するというケースもよくあります。こうした積立金の値上げや不足分の負担の可能性を考えると、大規模修繕の前に売却したいと考えるオーナーは少なくありません。
大規模修繕の前に売却することは、買主にとってもメリットはあります。大規模修繕が行われる前であれば、買主は、前のオーナーが積み立てた大規模修繕用の費用も含めて購入することになります。これは、新しいオーナーにとっては、前のオーナーが負担してくれた積立金を使って、大規模修繕ができることになりますので、かなり有利な購入となります。ですから、売主の立場からすると積み立てられた修繕積立金の金額を上乗せして、新たな買主に売却するという選択肢のひとつになります。修繕積立金は、取引条件にも影響を与えますので、売却の際は考慮が必要です。
・保有年数と譲渡所得税
不動産の保有年数にも注意が必要です。不動産の保有年数が5年以下で売却する場合、「短期譲渡」となり、譲渡所得税が39.63%と大きくなります。保有期間が5年を超える場合は「長期譲渡」となり、20.315%となり、短期に比べると低くなります。
保有期間によって譲渡所得税が大きく変わりますので、不動産を売却する時には、長期譲渡が適用される5年が経過するまで待つのがおすすめです。
まとめ
不動産投資は、最終的に売却が終わった段階で収支が決定します。そして、売却の時期やタイミングによって、収益が異なってきますので、「いつ売るか」の判断は、とても重要なことです。
ただし、投資不動産の売却タイミングは様々な要因が影響し、一つひとつの不動産で条件は異なります。すべての条件を完璧に満たすタイミングを見定めるのは極めて難しいことです。
ここで紹介したポイントは、一例に過ぎませんので、不動産投資事業が現在どうなっているか、将来どうなるのかという事業内容の分析・予測が必要です。そのためには、ITを活用したシミュレーションツールを活用したり、信頼できるプロに相談するなど、日頃から事業の経営指標についてシミュレーションを行うことが有効です。ITを活用したシミュレーションツールもいくつか提供されていますので、まずは自分自身で手軽に確認することも可能です。
購入から売却までの長期的な収支シミュレーションを行っておくことで、焦ることなく売却の準備をすることが可能となり、満足いく価格で売却できる可能性が高まるでしょう。
シミュレーションによってインカムゲインの収支を把握するとともに、出口戦略としてキャピタルゲインまで含めたシミュレーションを行うことが大切です。たとえ、予想外の出来事が起きたとしても、そのシミュレーションを適切に修正することができれば、判断に迷うことは少なくなるでしょう。
構成:猪口真(株式会社パトス 代表取締役)
編集者 ビジネス書籍の編集・執筆、ビジネス雑誌・Webメディアへの寄稿、取材・調査による分析レポート、教育コンテンツ開発、映像制作ほか、マーケティング・コンサルティングまで行う。