2014.8.25
トラフ建築設計事務所・鈴野浩一さんに聞く、
これからの住まい方
住む人と成長する
鈴野
「INITIA」では玄関を広くとっていますね。玄関に続く場所は、幅が狭いと廊下になりますが、広げてしまえばもう廊下と呼ばなくていいんじゃないかなと思います。廊下じゃない“何か”になっていますよね。30cmでもプラスのスペースや余白があることで、感じ方やすごし方が大きく変わってくるのではないでしょうか。
田中
自宅へ帰ってきたときの気持ちのゆとりを生み出す場所でありたいと考えています。効率とは異なる空間の価値を感じてもらえるとうれしいですね。
鈴野
廊下がただの通過動線ではもったいないですし、物理的にも広いほうが役立ちます。僕にも小さい子供がいるので、ベビーカーなどを入れられたりするスペースは必要だなと実感します。もっともっと広げてもらって‥‥‥土間のように使えるのも良さそうです。壁や床の仕上げで素材感を統一して、引き戸で開いてしまえば一体に使えるような場所。DIYで大工道具を使ったりするスペースにもなりそう。広げるのはいい発想だと思います。
保川
集合住宅において工夫の余地があると感じられる部分は他にもありますか。
イニシア武蔵中原レジデンス/
モデルルーム Atype・玄関写真(2013年12月撮影)
鈴野
例えば、外の景色とともに楽しめるバルコニーなどでしょうか。外に対して魅力的に見えてくるような仕掛けがついていると、入居する人にとっても自慢できるポイントにもなりますし、マンションとしての社会貢献にもなります。
コスモスイニシア 建築設計担当の田中 修
保川
街と一緒に暮らすという考え方ですね。どうしても、分譲時には完成形でなければならないと考えてしまうのですが、住む人たちと成長していくような雰囲気は残しておきたいです。
鈴野
そうですね。どれだけ余白を残そうか、という考え方は大切です。住む人が入ることで違う空気が流れるような………。マンションという商品として考えてしまうと最初から完成形を求めたくなりますが、住む人と成長していけるような環境があればいいのかもしれません。
屋外へと広がる住まい
田中
街に馴染み、より快適に暮らせる空間には、どんなことが大切になるでしょうか?
鈴野
住宅の中だけでなく、外側にも工夫が必要でしょう。例えば、バルコニーで楽しめるガーデニングなどが今求められていますよね。ネットやデジタルの世界から少し離れて、自分ではコントロールできない自然に魅力を感じる人が増えているのではないでしょうか。だからマンションを外側から見たとき、あらかじめ花壇が設置されているだけでも、そこに何か植えて育てることができるとわかって嬉しい気持ちになるはずです。外に対して魅力的に見えてくるような仕掛けがあれば、入居する人にとって自慢できるポイントにもなりますし、マンションとしての社会貢献にもつながります。僕自身の自宅はメゾネットタイプなのですが、小さいながらも庭がついています。部屋の窓からちょうど庭の花が見えたりして、中からもちょっとそういう屋外の空気を感じられることが、そこに住むきっかけになりました。
田中
ガーデニングには個性が表れますし、なにより、温もりのある環境を生み出してくれそうですね。どんなキャラクターの方々が住んでいらっしゃるのか、植物を通じてなんとなくお互いを知ることもできそうです。
鈴野
バルコニーも玄関と同じで、ちょっと広げただけでそこでの過ごし方が変わります。マンション設計ではどうしても、一部屋が何畳かという考え方に縛られがちですが、過ごし方の新しい価値はまだまだ生み出せます。海外へ行くと、屋外にも生活がはみ出てきているような住宅がたくさんありますよね。建物と建物の間に、洗濯物がはためいている風景に驚くこともあれば、日本では見たことのないような植物を育てている家もあって、同じような印象になりがちな集合住宅でも本当に個性的な住み方をしているなあ、と感心します。
保川
植物のように、住む人々によって生まれる部分が全体の顔になるマンション。いいですね。
鈴野
例えば、マンション購入者には1つずつ違う種類の植物を育ててもらえるような仕掛けがあっても楽しいですね。僕らの作品でも、バルコニーの手すりにひっかけて使う小さな木製のテーブル「スカイデッキ」があります。設置も取り外しも簡単で、バルコニーでちょっと一服したいときや洗濯物を干す間に、携帯ラジオやビールなんかを乗せるのに最適。街を歩いている時にも、こういうものが飛び出していたらそこにいる人の顔が想像できて、その街を楽しく感じると思います。街とつながることで、マンションの価値も高まるのではないでしょうか。
左から田中 修、保川真由佳、鈴野浩一さん
シェアして広がる楽しさ
鈴野
もう1つ、マンションに期待したいのは、シェアする価値観です。マンションを購入する動機になるくらいに、例えば大きな住宅をシェアするように、1つの場所を共同で使うことの意識が高まるといいですよね。
田中
「INITIA」では、シェアする感覚を広く取り入れています。便利だけれどいつも使うわけではないものを、なるべく共用部のどこかに置いておけるような。ストレージとも違って、住む人たちみんなでシェアする雰囲気はこれからもっと求められると考えています。
鈴野
マンションの廊下や、各部屋へ着くまでの通路はシェアする場所でもあります。そこで例えば読み終わった本の交換ができたり、共有の本棚を持つのもいいですね。
保川
何かをする専用の場所というよりも、使い方を決めつけない自由な場所がマンションにも必要ですね。
鈴野
シェアの価値観は、最近のオフィスのあり方と近いかもしれません。最近では、オフィスに座っていなくても仕事ができてしまうこともありますから。そこをあえて同じ空間で一緒に働くことに意味があります。マンションという1つの空間で、シェアするものが増えれば、それだけ住居としての価値も高まるはずです。
鈴野浩一さん
トラフ建築設計事務所「スカイデッキ」 Photo by Fuminari Yoshitsugu
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