入社後、向山は社内の一級建築士事務所に配属となった。
一級建築士事務所では、建築部では行っていない建物の設計・工事監理を一級建築士事務所として受注しているほか、グッドデザイン賞受賞に向けた戦略立案・事務局も担当しており、物件の選定からプレゼンの策定まで期間にして半年以上をかけて準備する。
「この会社すごいな、面白いなと思ったのは、入社1年目の“ぺーぺー”の私でも、『グッドデザイン賞』の表彰式典に参加させてもらえるんです。
他社の方は10年、20年かけてその境地にたどり着けるところを、私はまだ入社したばかり。
こんな経験を積ませてもらえることは本当にありがたかったです」
そのグッドデザイン賞で印象深かったのは、2年目を迎えた時のこと。
自分が入社する以前に竣工していた、とある都内の物件を応募プレゼン作成のために見学した際、「こんな暮らし方提案ができるのでは!?」とビビビ!ときたという。
世の中のマンションを見渡すと、4人家族を想定したファミリータイプの3LDKか、単身を想定したシングルタイプの1LDKが主流。
その物件においてもファミリータイプの3LDKが作りたかったのだが、設計の関係上どうしても二人暮らしでしか暮らせない部屋ができてしまったのだった。
「でも、2人暮らしという単位って結構需要があると思うんです。
新婚さんをイメージしがちですが、子どもたちが育った熟年夫婦、または親子ということもあります。
実際、この物件はそうした方々に評価されました」
この世の中に照らし合せた時、2人という単位の空間提案は希少だとし、企画書ではその暮らし方の多様性と有効性をストーリー化している。
この発想と商品化が評価され、向山が挑んだ表彰の舞台で受賞が叶った。
このときの想いを彼はこう語る。
「世の中にうまくいっていないもの、変なものというのは必ず存在します。でも見え方を変えるだけでおもしろくなったり、価値がうまれたりする。
僕は実は受験も失敗していて、最初から建築学部に行きたかったわけではなかったんです。でも、大学受験に失敗したからこそ今がある。
失敗やアクシデントがあると何かが起こり、やるしかなくなる。その結果、異なる観点が生まれて、それを誰かに伝えることができる。
そういうことに価値があると思うんですよね」
入社して3年が経ったとき、彼は建築本部統括部統括課という部署にいた。
建築本部の全体を見渡し、既存商品のフォローアップや商品企画、予算管理や戦略促進、人材育成やICT推進まで、幅広く実施している部署だ。
その中の一つの仕事で、「商品企画ガイドライン」の策定を行った。
物件を建設していくためには「商品のコンセプト」が必要になる。
これを建築担当がひとりで、コンセプト立案から商品企画まで考えていくのだが、部署を超えて打合せを重ねていく中で反論・異論などによりブレが生まれることがある。これでは時間と労力に大きなロスがあると感じたという。
そこで効率化をはかるために、社内の建築担当のための「商品企画ガイドライン」として、ターゲット層の言語化や抽象的になりがちなマーケティングキーワードを“見える化”したのである。
「これにより、建築担当一人ひとりがアツい想いを持って向き合っている物件の商品企画のこだわりをさらにパワーアップしたかったんです。
また、お客さまが言葉に表せないニーズを、言葉にしていないがために『ないもの』としていることにも違うんじゃないかと思っていました。
格好いいもの、おしゃれなものは簡単にできても、お客さまのとっての価値がないと意味がないですよね」
とも向山は語る。
その他、ESGプロジェクトや、社内物件のフラッグシッププロジェクト、建築部初のアイデンティティプロジェクトなど、直接建築にかかわるものだけではなく多角的に関わっている。