企業の「土地所有・利用状況」から見る、各社のCREに対する考え方
CRE戦略(保有不動産の活用戦略)を考える際に、不動産を保有する企業は、実際に、不動産に対してどのように考え、どのような対策を講じているのでしょうか。国土交通省が行っている、「平成30年度 土地所有・利用状況に関する意向調査の概要について」(調査対象:8大都市に本社が所在する株式会社4,000社)を参照しながら、傾向を探りたいと思います。
土地の所有・賃借に関する意識
まず、今後、土地・建物について、所有と借地・賃借ではどちらが有利になると思うかについての調査です。
今後、「所有が有利になる」とする企業の割合は40.4%(前年度対比1.2ポイント減)、今後、「借地・賃借が有利になる」とする企業の割合は37.3%(前年度対比1.2ポイント減)となっており、いずれも減少です。「持つ」か「借りる」かというのは、長年議論されてきたことですが、不動産の活用法が多様化し、一概には断言できなくなってきたと言えるのかもしれません。
図1 今後の土地所有の有利性についての意識
この状態は、現在の所有状況にも表れており、土地の所有あり、借地あり、いずれも減少しています。
「自社所有地あり(自社所有地のほか借地ありを含む)」と回答した企業は51.8%(前年度対比4.9ポイント減)となっており、「借地あり(借地のほか自社所有地ありを含む)」と回答した企業は40.2%(前年度対比2.1ポイント減)となっています。
一方、「いずれもない」とする企業が31.4%と増加しており、不動産の流動化が進んでいると言えそうです。
図2 土地所有状況の変化(全体)
土地を所有するほうが有利であると考えている企業は、どのような理由で所有しているのでしょうか。
もっとも多いのは、「事業を行う上で、自由に活用できる」で、54.0%(前年度対比1.8ポイント増)と半数を上回っています。前回調査では、「土地は滅失せず、資産として残る」がもっとも多かったのですが、最新の調査では、「コスト面を考えると、所有の方が有利」とともに、大きく減少しました。
2017年から2018年の企業業績の向上によって、コスト削減や資産の保持といった守りの姿勢から、事業拡大に向けた前向きな活用方法を選択する企業が増加していると言えるでしょう。また、「土地は他の金融資産に比べて有利」と判断する企業も増加しています。
図3 今後、所有が有利になる理由(複数回答)
調査では、「今後、借地・賃借が有利になる理由」についても聞いており、「事業所の進出・撤退が柔軟に行える」が50.1%(前年度対比8.4ポイント減)、「コスト面を考えると、賃借の方が有利」が47.1%、「初期投資が所有に比べて少なくて済む」が30.7%、「土地は必ずしも有利な資産ではない」が27.0%となっています。
やはり、所有か賃借は、企業経営戦略とも関連しており、意見の分かれるところです。
図4 今後、借地・賃借が有利になる理由(複数回答)
未利用地の状況
自社所有地をもつ企業のうち、未利用地のある企業の割合は、15.6%(前年度対比2.3ポイント減)となっています。平成10年度は、24%の企業が「未利用地がある」と答えていましたので、企業における未利用地は確実に減少傾向にあると言えるでしょう。
未利用地となっている理由は、「売却を検討したが、売却に至っていない」が34.0%(前年度対比4.1ポイント減)でもっとも多くなってはいますが、「事業採算の見込みが立たない」と同様に、減少の傾向です。反面、「利用計画はあるが、時期が来ていない」が25.5%(前年度対比7.4ポイント増)、「販売用に在庫として確保している」が16.0%(前年度対比3.6ポイント増)と、チャンスをうかがっている様子が見て取れます。
図5 未利用地となっている理由
調査では、「未利用地の今後の対応策」についても聞いています。「売却する」「賃貸する」が増加しており、「当面そのまま」「利用計画に従い利用する」は減少。何らかの活用が進展していると言えそうです。
土地の購入、または売却の理由について
「事業拡大に向けた前向きな活用方法を選択する企業が増加している」という状況を示す、もうひとつのデータがこちらです。1年間の土地の売買に関する質問で、「土地の購入(または購入検討)の理由」として、「事業拡大のため」が63.7%と、前年度対比5.8ポイントの増加、「景気の改善」「決算対策」も少数ながら増加となっています。
図6 土地の購入(または購入検討)の理由
また、土地の売却(または売却検討)の理由においても、長期的な傾向として、「事業の債務返済」という理由は、減少傾向にあります。また、リーマンショック後、「事業を拡大・展開するため」に土地を売却するという戦略をとる企業も徐々に増加しています。
土地を購入するにしろ、売却するにしろ、事業の拡大に向けて、様々な手法があることの表れだと言えるでしょう。
図7 土地の売却(または検討)の理由
どのような用途の土地を売却したのかという調査については、「賃貸用施設用地」が30.2%で、前年度対比でも3.6ポイント増と大きく伸びており、賃貸経営に取り組む企業が増加していることがうかがえます。
「自社の事務所・店舗用地」は17.7%と、前年度対比8.3ポイント減となっており、平成29年度に比べると落ち着いてきているようです。
図8 売却(または売却検討)した土地の従前の利用形態
*図版、グラフは、すべて「平成30年度 土地所有・利用状況に関する意向調査の概要について」より作成