ポートフォリオの組み方
投資行動の軸はリターン(利益)追求ですが、リスク管理も同時並行していく必要があります。そのための有効な手段がポートフォリオと呼ばれる資産の分散投資です。不動産投資におけるポートフォリオについて考えていきます。
ポートフォリオとは分散投資
ポートフォリオ(Portfolio)を英和辞典で引くと「書類入れ」「(大臣の)地位」などと訳されています。単語の響きからして語源は英語でないと感じます。語源はイタリア語で「札入れの財布」などの意味があるようです。
国内の金融業界でこの言葉が使われだしたのは、1980年代後半から1990年代前半にかけて。金融の自由化・国際化が進み、世界の証券市場が活況を呈していた時期です。株式や債券、為替、商品先物、デリバティブなど多くの資金運用商品やその手段が登場していた頃に当たります。
当初、ポートフォリオは「金利選好」と訳されていました。企業や個人は多くの金融商品を前にして保有する資産をより高利、高配当での運用を目指すようになり、金利に敏感になります。そこで、数ある金融商品のなかで最適な運用をするにはどれを選択するべきかという機運が生まれました。
そして複数の金融商品を選択してリスクを回避したり補完したりすることが提唱され、「分散投資」という言葉が生まれました。その後ポートフォリオは、金利選好という訳語ではなく分散投資という意味で使われることが多くなり、今日に至っています。
不動産投資における「分散」とは?
金融における分散投資は、相反したり連動したりする商品を組み合わせてリスク回避し、リターンを増やすように構成します。例えば、金利が上がれば債券価格が下がるメカニズムを利用して商品を選びます。不動産投資における分散投資も同様で、複数の物件の「特性」を考えてポートフォリオ(分散投資)を構築していきます。
不動産投資の場合、潤沢な資金があれば別ですが、オーナーの大半は物件購入の際に銀行融資を受けています、このため、複数の物件を保有してポートフォリオを組むことは借入金が増えてリスクが高まるのではとの懸念が生まれるでしょう。
しかし、適確に組み立てれば複数の物件を持ちながら賃貸経営に当たるほうがリスクは軽減されます。なぜなら、一つの賃貸不動産で老朽化や居住環境が変化し家賃収入が減少したとしても、それ以外の物件の収入で補完することができるからです。
不動産におけるポートフォリオ(分散投資)の組み方は、①築年数➁エリア③種類(用途)―が柱で、この要素によって物件を選択します。これに木造やRC造などの「構造」や単身者か家族向け(ファミリー)かの「間取り」が続きます。
築年数による分散投資は、修繕リスク対策になります。保有している物件が修繕の時期を同じタイミングで迎えてしまうと、経費が集中してキャッシュフロー上問題が起きます。例えばアパートと区分マンションを有する場合、それぞれの修繕時期を購入前から念頭に入れておくことが望まれます。区分マンションを1室保有しているオーナーがもう1室購入する際には、築年数がズレていれば修繕時期も異なり、一度に多額の修繕費を支出するリスクは避けられます。
エリアは、周辺環境の変化や災害に対するリスク対策になります。大学や大きな工場がある周辺のアパートでは、移転や撤退のリスクが伴います。そうなると入居者は遠からず減少し、空室リスクが高まります。そうしたエリアで物件を保有する場合、あらかじめ大学や工場の移転や撤退についての情報を事前に必ず確認しておくことが求められます。
河川に近接し氾濫のリスクがあるような地区は、当然回避します。近年は気候変動の影響でしょうか、大雨や強風、土砂崩れなどの自然災害が多発しています。エリアの分析と同時に、地質も事前の調査対象にしておくべきでしょう。最近はインターネットで地盤分析を無料で行ってくれる不動産テックのサイトもありますので、活用してみましょう。
種類(用途)はオフィス系と居住系に分かれます。事業用の賃貸物件は景気に左右される側面が強く、居住系はアパート・マンションの別があり、マンションは「区分」「1棟」タイプに枝分かれします。事業用は好景気では家賃収入の上昇も期待できますが、不況になれば空室リスクが一気に高まります。安定的な収益源としては居住系です。ただ、オフィス系の場合は駐車場、倉庫などの用途がある点に留意しておくべきでしょう。安定収入が期待できる居住系をメインに、多目的なオフィス系の組み合わせは魅力的なポートフォリオかもしれません。
間取りは、単身者用とファミリー用があります。単身者は比較的入居年数が短く、ファミリー系は長い傾向があります。構造は木造やRC造などに分かれますが、建物の構造は減価償却期間にハネ返りますので、リスク分散の目安になります。
不動産投資のポートフォリオで心掛けたいこと
分散投資は、一度に多くの物件を購入して始めるのは賢明ではありません。まず1棟を購入し、収益化のメドが付いてからの話になります。最初の物件に対するリスクを洗い出したうえで、それを回避する物件を探す。そうした投資を繰り返して成果を積み上げていくのが分散投資と言えるでしょう。
分散投資は、より良いリターンを得るための戦略ですが、最大の狙いはリスク管理にあります。より多くの利益を得るだけなら、リスクを覚悟して巨大物件1つに資金を集中投下すれば、最大利益を得る可能性はより高まるでしょう。しかし失敗したときのリスクは計り知れません。それは投資ではなく投機、バクチです。不動産投資は適確にリスク管理して初めて成果を得ることができるのではないでしょうか。