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不動産市況

不動産市場は、 2つの「防衛需要」で 底堅い動きに

住宅・不動産全体の需要は、アベノミクス効果の弱まりで緩やかに減速している。とりわけ、新築住宅は価格高騰が著しく、売れ行きは全体として鈍化してきた。一方、割安だった中古住宅の需要は極めて強く、一部では品不足となっている。不動産の投資需要や相続に絡んだ取引は、依然として活況を呈している。このように、現在の不動産市場は分野によって異なる動きをしている。市場全体では依然、底堅い動きだが、今回はその背景と要因を探ってみたい。

生活防衛の需要が根強い


地価の高騰や建築費の上昇で、新築マンションや建売住宅の販売価格はこの数年間上昇が続き、購入希望者が追い付けなくなった。実質所得が厳しくなっている若年層は、生活全体のコスト低減を図り、家賃並みか、それ以下の住宅ローンの支払いで購入できる中古マンションや中古の戸建住宅の取得に積極的になっている。生活に必要不可欠な「衣・食・住」のうち、住宅コストは大きく、その低減を目指して、低価格の中古住宅取得に意欲的になっている。
その結果、図表❶・❷に示されているように、取引件数は高水準で、右肩上がりの状況が続いている。特に、利便性の良い都市中心部や駅近の物件については、価格の上昇が著しくなっている(図表❸)。新築住宅価格の高騰が続いてきたことと、実質所得の低下で、割安な中古住宅に高い関心を示す人が多くなってきている。
なお、最近では、リーマン・ショック直後の不動産不況期に、中心部の中古マンションを安く取得した人が、高騰した自宅マンションを高く売却して、郊外の中古戸建住宅に買い替える例も見られるようになってきている。価格の値上りによって、一部の地域では資産ロスがなくなったり、売却益が確保できたりすることで、昔のように買い替えが容易になったのである。
さて、家賃並みか、それ以下の住宅ローンの支払額で取得する目的は、「生活防衛」をする動きであり、この需要は、現在の超低金利と金融緩和という条件下では、続くものと考えられる。ただし、中古住宅の価格が新築住宅と同様に高騰する局面になれば、需要は弱まることになる。それは、生活防衛という目的に適ったものではなくなったからで、過去にもその歴史はある。

資産防衛の需要は、 活発さが続いている


現在の不動産市場で際立っているのは、投資や相続に絡んだ需要で、その取引には依然として衰えが見えない。
ただ、不動産の投資については、収益物件の取得希望者があまりにも急増し、優良物件に投資家が殺到したため、価格が高騰し、利回りが著しく低下してしまった。数年前には利回り10%前後であったものが、現在ではその半分、あるいは2〜3%台という取引も珍しくなくなっている。純粋な不動産投資として考えると、その魅力はなくなっている。それでも取引が成立しているのには理由がある。
1つには、投資としてだけで考えるのではなく、「相続対策だから」との理由がある。主目的が投資ではなくなっている。
2つ目は、相続対策を目的とする個人の富裕層に対して、金融機関が極めて低い金利で融資していることがある。最近では、条件にもよるが、金利が0.5%前後にまで低下している例も少なくない。この水準であれば、利回りが多少低くても、インフレ対策と併せて収益物件を購入しようという動きを誘発することになる。
このように、相続に絡んだ不動産取引も、市場では目立っている。今年から相続税が強化されたことで、従来まで無関心だった人たちも自分のこととして関心を示すようになり、ここに来て一気に増加している。特に、3大都市圏や地方中枢都市の中心部に不動産を所有する人たちは、無関心ではいられなくなっている。
そのために、相続をテーマにした各種のセミナーが数多く開催されるようになり、相続対策として不動産の売買、土地活用が活発化している。この背景には、税制の変更と同時に、高齢者の増加があることは言うまでもない。
図表❹は、被相続人数の推移を示したものであるが、増加のトレンドは明白で、今後、一段と強まっていくことは確定した事実と言ってもよい。
現在の日本の高齢者人口は3384万人と推計され、総人口に占める割合は26.6%で過去最高を記録した。また、80歳以上の人口が初めて1000万人を超えた。
高齢者の絶対数が増加していくことで、相続対策としての不動産取引はますます活発化していくことになる(図表❺)。自分や家族の資産を守っていこうとする資産防衛の動きは、当分の間、続いていくことになる。

 

不動産市況アナリスト 幸田昌則氏
ネットワーク88主宰。不動産業の事業戦略アドバイスのほか、資産家を対象とした講演を全国で多数行う。市況予測の確かさに定評がある。

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