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4人が語る「INITIA ID」

「Next Value For The Customer ~お客さまに求められる、次の価値をつくる~」という企業理念で「マンション・戸建等、事業用地の仕入れから建設・分譲、賃貸・資産運営のコンサルティング等」、幅広く不動産事業を展開しているコスモスイニシア。
ファッション、建築、音楽、デザイン、アート、食をコンテンツに「遊び場を創造する」をコンセプトに掲げ、日本だけでなく海外でも高く評価されているTRANSIT GENERAL OFFICE(トランジットジェネラルオフィス)。
店舗設計、住宅設計、リノベーション、イベント企画設計など数多くの設計/デザインに携わってきた阿相稜と鈴木哲郎により2013年設立されたduffle(ダッフル)。
業界もそれぞれ異なる3社がどのようにして手を組み、「INITIA ID」が生まれたのか?
プロジェクトに関わる4名で語り合います。

MEMBER
座談会メンバー

  • 長谷川 楽

    コスモスイニシア
    商品企画担当

  • 木村 学也

    トランジットジェネラルオフィス
    プロデューサー

  • 鈴木 哲郎

    duffle
    インテリアデザイン担当

  • 阿相 稜

    duffle
    インテリアデザイン担当

こだわり抜いた空間を、こだわりを持った人に

長谷川

長谷川

コスモスイニシアは、新築マンションの分譲を長年やってきた会社です。約3年半前から中古マンションのリノベーションの事業を本格的に始めました。今ではリノベーション市場は参入障壁が低いということもあり、世の中にはいろいろなタイプの物件があふれています。
コスモスイニシアが住まいづくりで大事にしているのは「空間でのすごしかたから空間を考えること」。でも新築マンションを選ぶ方とリノベーションマンションを選ぶ方の価値観は同じではないし、すごしかた自体も、人々の価値観の多様性によってどんどん変わっていくのではないか。そう考えたとき、今のリノベーションマンションを選ぶ人たちが本当に求めているようなものを供給したいと考えました。
「トレンドの最先端の人たちが求めるライフスタイルに応えるリノベーションマンションをつくりたい」と決めたときに、住宅だけでなくライフスタイルについての最新トレンドやニーズを把握したいと思いました。
そこで、ライフスタイルについてのフロンティアラインを知っていて、さらに最新のトレンドをそのトレンドを空間に取り入れることが上手な会社は「トランジットさんしかない!」と思ってお声がけさせていただきました。

木村

木村

トランジットは、商業空間を中心にライフスタイルにおいて、「空間をどう価値化するか」といったお仕事に長年携わってきました。例えば、カフェは生活の中で一時間すごす場所、レストランは二時間、ホテルなら一日、住宅ならば数十年すごす場所だと。そう考えたとき、「徹底的にこだわり抜いた物件を一つつくり、気に入ってくれる人がいてくれればいいですよ」という、一般的なマンションの商品づくりとは異なる形で、住宅を価値あるものにするという今回の仕事は、自分たちにとっても自社のスタイルを発揮出来る企画だと思い、参加させて頂くことになりました。
Duffleさんは商空間のデザインだけでなく住宅にも強く、なおかつ僕らの感覚を理解してもらえるであろう、コラボレーションのパートナーとしてお声掛けさせてもらいました。

鈴木

鈴木

店舗の設計もよくやりますが、住宅のリノベーションのお仕事が基本的には多いですね。今リノベーションの物件が、世の中に無数にあると思うんですけど、似たり寄ったりの商品が増えてきている中で、「今回まったく新しい商品がつくれるんじゃないか」と、最初にお話をお聞きしたときに感じました。

コンセプトは「海外のホテル」

木村

木村

僕らは最初に「フォトジェニックな空間をつくりましょう」と提案させていただいたんです。そのイメージを具体的にしていくうちに、「ホテルライク」という言葉が出てきました。空間のイメージを走らせていく軸にホテルが当てはまった感じですね。

鈴木

鈴木

そして具体的な空間を模索していくときに「ベッドルームから考えませんか?」という内容が、どんどん進化していった感じですね。

長谷川

長谷川

「住まい」ではなく「ホテル」というワードが空間を形容するものとして出てきたのは最近になってからですが、絵になるような、写真に撮って映えるような空間というコンセプトは当初からご提案いただいていた内容と変わってはいなかったんです。

木村

木村

フォトジェニックというのは要するに、写真を撮ったときにすごく映える空間のことだと思うのですが、はたしてそれが住む人にとって価値になるのか、というところを議論しました。単純に見栄えが良いだけでは意味がない。お気に入りのホテルのように、その空間にいることでテンションが上がるというか、日常に非日常感を持ち込むことで、楽しいライフスタイルになるみたいなことができたらいいな、そんな考えかたをしていきました。
やはり普通のマンションであれば、供給した戸数を売り切るということが前提なので、万人に気に入ってもらわなければならない。ですが今回は1戸単位でつくるリノベーションマンションなので、徹底的に個性を出せる。それであれば「ホテル」のような美しく、快適で、独創的な部屋がいいのではと、突き進むことができたわけです。

3社のこだわりが生み出した理想の空間

長谷川

長谷川

一般的なリノベーションマンションは一つのトレンドがあると、パッと流行って、結局ありふれた印象になってしまいますよね。今回は容易に真似ができないような、言ってしまうと素人ではつくれないようなものをつくれたら、「こういう空間が欲しかったけど、自分では頑張ってもつくれなかった」と言ってもらえるんじゃないかと思ったんです。その部分をトランジットさんとduffleさんに徹底的にお願いしました。コスモスイニシアが提供するのは住まいとしての使い勝手や、マンションの本来持つべき機能をきちんと担保すること、安心して安全に暮らせるっていうこと。新築で培ってきたノウハウを活かして提供しながら、センスやデザインをパートナーの方にご協力をいただきながらつくっていったからこそ、他にないようなものをつくれたんだと思います。

木村

木村

僕らがマンションの商品企画のお話をいただくときは、専有部よりも共有部をいかに面白くするかみたいな話が多いのですが、専有部を思いっきりつくり込めるという仕事は、本当に珍しく、うれしいお話です。海外ではセンスのある人が徹底的に自分の部屋をリノベーションしていますが、そういったものが日本だと商品として世の中にないなと感じていました。今回そういった形で個性的な空間を商品化できるチャンスを頂き、すごく面白いと思いましたね。

鈴木

鈴木

とはいえ、あまり趣味に寄りすぎてしまうと、商品として偏ってしまうのではと悩みました。そこのさじ加減というかせめぎ合いというのが、僕たちだけだとストップが効かない部分もあったので、コスモスイニシアさん、トランジットさんにその辺りをお聞きしながら、理想に近づけたのは今回大変勉強になったところです。

ベッドルームから考える一つながりの空間

木村

木村

ホテルの持っている機能はファシリティーだけではなく、サービス面であったり、多岐にわたると思うのですが、今回大事にしたのは「日常的に感じられる非日常感」。やっぱり僕らも海外に行ったときは、なにかと忙しくてホテルが寝るだけの場所になっちゃいますよね(笑)。でもその空間が豊かであるか、そうでないかで、訪れた国を好きになるかという気持ちさえも変わってくると思うんです。そういった意味では、部屋はただ寝るだけの場所ではない。普段の生活のなかで気分よくテンション高くいられるための場所にするために、今回は相当気を遣ってつくりました。

鈴木

鈴木

こだわったのは「一つの空間」。先ほど話した「ベッドルームから考える」というのは、必ずしもベッドルームが中心にあって、それが大きな空間であるってことではないんです。リビングやベッドルーム、ダイニング、キッチンを繋げていくと、一つの空間になる。そんなつくりかたを僕らはしていますね。

阿相

阿相

普通の設計だと、大抵は日中のシーンを想定して、広いリビングをつくるんですね。そのしわ寄せが寝室にきて、小さなベッドルームになってしまう。さらに水回りもユニットバスになったりして、見せられるものではなくなってしまう。
今回は夜のリラックスした時間にスポットを当てて設計してみました。通常だと「六畳くらい取れればいいかな」という寝室を、あえて広めにとって、リビングに繋げてみたんです。

長谷川

長谷川

一般的に寝室はプライベートな空間として、隠すような考えかたが強くあると思うのですが、寝室も絵になって、家に来たお客さんに見られても全然恥ずかしくないような空間になれば意識は変わると思うんですね。そういった意味で「非日常感のあるホテル」というのは、ベッドルームも自然に見せることができる空間だと思います。
普通のマンションで、特にお子さんがいらっしゃる家庭だとわかりやすいと思うんですけれど「とにかく荷物が多いので、一部屋納戸として使っています」とか「水回りはお客さんには見せられないです」とか、そうやって家の空間を陰と陽に分けて生活している人が意外と多いんです。 今回私たちが考えたのは、どこを切り取っても人に見せられる空間。隠す部分がないからこそ、部屋は清潔に保たれるし、生活意識が変わってくると思うんですね。。

鈴木

鈴木

はじめは物件も決まっていなかったので、僕たちのほうで想定したものを3パターンつくらせていただきました。その中で、すべての部屋が繋がっているという空間のアイデアが出てきたんです。

阿相

阿相

ケーススタディ3パターンのうち、最終的には個室がしっかりとられているものよりも、ワンルームに近いプランに住みたいという意見で一致しました。その辺りから「これってどういうことなのか?」と議論していきました。クローズな空間と考えられていた寝室、実はリビング・ダイニングと繋がっていても気持ちいいんじゃないか?今の住宅の当たり前を再検討した結果が「ホテルライク」なんですね。

鈴木

鈴木

物件によって異なる部分もありますが、「INITIA ID」は浴室と洗面室がガラス張りになっているため、一体感があります。廊下までもガラスでつながっているため、窮屈な感じがなく広がりが生まれました。全面をガラスの引き戸にして、キッチンリビングともほぼ一体で繋がっているというプランもつくっています。

木村

木村

寝室と浴室が繋がっているというのをとにかく意識しましたね。住宅は人を招くという点と、自分たちがどういう住みかたをするかという点の二つの重要なポイントがあると思うのですが、普段自分たちがすごすときに一番心地良い配置や動線が組めるように考えてもらいました。

すごしかたが目に浮かぶような空間を

木村

木村

「INITIA ID」ではディテールに徹底的にこだわり抜きました。マンション物件って、なんとなく見たことがあるような建材やパーツがいつも使われているような気がしたんです。そこで細部までありがちなパーツを一切使わないようにつくってほしいとお願いしました。

長谷川

長谷川

以前、ご提案いただいた資料に、「ここに絵を掛けることができます」など細かな仕様が図面に書かれていたんですね。それを見たときに「大きな絵が飾ってあるような寝室ってホテルっぽいなあ」と情景が見えたんです。そんなふうに一つ一つのシーンが目に浮かぶ、細かくつくり込まれた提案にワクワクしましたね。

阿相

阿相

家具まで含んだ計画にすることで目指していた全体の空間ができあがりました。住んでいただく人たちもシーンを想起しやすいと思いますね。

長谷川

長谷川

新築マンションを分譲していると「モデルルームのような空間に住みたかったけれど、実際家具や荷物を置いたらイメージ通りにはいかなかった」というお客さまの声をよく聞くんです。憧れを抱いてご購入いただいたマンションが、理想と異なってしまってはもったいないなと。「INITIA ID」は一部の家具までコーディネートされているので理想通りの空間を実現できると思います。

木村

木村

僕らはこのデザインのコンセプトを「クラフテッド・エレガンス」と呼んでいます。北欧の温かみのあるクラフト感にニューヨークのモダンな感じをミックスし今までのリノベーションマンションのデザインの潮流とは違った上品なデザインを目指しました。
リノベーション物件の特徴として、天井や壁の塗装もせず、ざっくりつくり込んでしまうものが一般的には多い印象ですが、僕らはクラフト感もありながら、そこにきちっとしたデザインを落とし込むことで、無機質なものよりも温かみが感じられ、長く住んでもらえる空間になるのではと考えました。「INITIA ID」が一つのホテルブランドのように、今後ブランドとしての拡張性が持てるようモノづくりをした感じですね。

長谷川

長谷川

リノベーションマンション事業は物件を買い取り、つまり資金を投下して行なう事業ですので、つくった結果売れないというのを事業主としてはすごく恐れています。そのため、正直に言えば、思い切ったチャレンジをしにくいというのが通念的にあります。でも今回duffleさんにプランをいただいたときに、「中古マンションのリノベーションにはこんなに自由な発想もあるんだ」と図面を見て社内で盛り上がったんです。こだわり抜いた一戸だからこそ、チャレンジができたことが大きかったですね。

それぞれの理想のホテル

鈴木

鈴木

実はホテルの設計を今までやったことがなかったです。ホテルはやってみたいと長年思っていたのですが、まさか今回こういう形で実現するとは思いませんでした(笑)。

一同

一同

(笑)

鈴木

鈴木

ホテルに求めるものはやっぱり居心地に尽きると思いますね。長谷川さんはどんなホテルが好きですか?

長谷川

長谷川

ニュージーランドの田舎町のホテルというか木造の小さい小屋が並んだコテージみたいな宿ですね。斜面地にあって、そのまま自然の条件を生かしてつくった感じで。みんなが集まるようなコアの建物はあり、コミュニティみたいになってるようなホテルでした。そういうのが割と好きですね。

木村

木村

僕はニセコにある旅館「坐忘林」が、最近だとすごくよかったですね。オーストラリアのクリエイティブディレクターの人が全体を手がけていて、空間的に隙がなく満足度が高かったですね。あとは最近シドニーをはじめ、オーストラリアのホテルがデザイン的にも面白いですね。

長谷川

長谷川

日本はもともと旅館の文化が根強くあって、「坐忘林」とか「星のや」は、ホテルと旅館がうまくミックスされてるような空間になってるんじゃないかなと思いますね。また、そういうものが今後増えていくのかなって思うところはあります。和洋折衷じゃない新しい日本ならではのデザイン。木村さんが面白いっていうポイントはどんなところですか?

木村

木村

デザインホテル、ブティックホテルって呼ばれるホテルの潮流が最近変わってきている気がします。純粋に機能ももちろんそうなのですが、個人の趣味が反映されている空間が多くなってきている気がしています。

長谷川

長谷川

オーストラリアのホテルは個性的な空間が多いんですか?

木村

木村

個人の趣味が強く感じられるものもあるし、どちらかというとデザインとして尖っているというよりは、ハッピーになったり、テンションが上がる空間が多いように感じます。それはもしかしたら国の風土もあるのかもしれないですけど。一時期のデザインホテルのグラマラスな感じのデザインとは違い、住空間に近いような雰囲気があるんです。
個人の方がこだわり抜いてつくったリノベーション空間は、あまりメディアには出ないものだとは思うんですけど、実際はそういったものが結構面白いものが多い印象があります。僕らの周りも新築でマンションを買う人よりも、中古で買って自分たちでつくるっていう感覚の人間が多いので。今回「INITIA ID」にはそうしたすべての経験をうまく反映できたと思いますね。自分が行ってみたくなる、住みたくなる空間、満足いく空間をつくれたと思います。

2016 年10 月10 日収録